「例えば誰か一人の命と 引き換えに世界を救えるとして」
Mr.Childrenの「HERO」という詩は、そのような問いかけから始まります。
自分は名乗り出ない。たくさんの愛すべき人たちがいるから。 愛する身近な人のヒーローとして生きていきたい、と続きます。

  身近にいる誰かを笑顔にすることが、世界の笑顔につながる、 そう信じていたいと思います。
  しかし、私たちの住む社会は、とても複雑なものになっていて、 毎日の生活や仕事の中で、目的や喜びを分かちあったり、 周りにいる多くの人たちとつながっていると実感したり、 メリットや有利不利よりも共感や尊敬を大切に一緒にいたり、働いたり、 そんなことがとても難しいものになってしまっています。

   みんな忙しく、自分のことで手一杯なのです。 誰かの苦しみや悲しみに心が痛んだり、自分の住む街がどこか寂しかったり、 そんな想いを胸に抱えていても、この現代社会の中で、 いったい個人に何ができると言うのでしょう。

   だから・・・ 今の社会では、先ず自分が笑顔で働くために、 その笑顔を誰かと分かちあっていき、笑顔の連鎖反応を起こすために、 それを一回きり、偶然のものではなく、毎日、続いていくようにするために、 何か素敵な仕掛けが必要なのです。

   今、日本のあちらこちらで、近くにいる人の笑顔が見たくて、 笑顔の連鎖反応を起こす仕掛けづくりに挑戦している人がたくさんいます。   その人たちは、特別な地域で、特別な力があるからできたのではありません。 あなたの住む街のようにありふれた街で、 あなたのようなどこにでもいる会社員や主婦、学生だった人たちばかりです。

   普通の街の、普通の人が、偶然出会ってしまった問題やアイデアを、 自分の経験やスキルを活かし、仲間の知恵を借り、共に議論し、 誰に命じられた訳でもないのに、やるべきだと信じたことに挑戦しているのです。

   ただ、その人たちには、他の人よりも少しだけ強い共通の特長があります。

   自分がやるべきだと信じたことへの責任を自分で引き受け、 信じたことを自分の言葉にして周りに伝え、 自ら一歩を踏み出す勇気を持ち、 思っていた以上の問題や課題に直面しても諦めたり、投げ出したりせず それでも、いつも自分や周りの笑顔を忘れずに、 自分が納得できる解を探し続ける

   私たちは、このような特長を アントレプレナーシップ(起業家精神)と呼びたいと思います そして、地域の笑顔のためにアントレプレナーシップを発揮して働く人を 「コミュニティ起業家」と呼び、その人たちがやるべきだと信じ、 知恵を絞って独自の工夫をしながら継続的に取り組んでいることを 「仕事」と呼びたいと思います。

   この本は、32のコミュニティ起業家の仕事を取り上げました。 その仕事が笑顔の連鎖反応につながるための重要な転換時に焦点をあて、 コミュニティ起業家が何を大切に、どう判断し、どんな仕事をしたのか紹介しています。

   この本で紹介しているのは、伝説でも、成功物語でもなく、「仕事」です。 だから、あなたにもできることばかりです。

   悲しかったり、諦めたり、嘆いたり、不満に思ったりする気持ちを、 少し肯定のパワーに変えて、周りの人に提案したり、一緒に何かを始めてみたり、 そんなことで、あなたの中にもあるアントレプレナーシップは目を覚まします。

   自分に何ができるのかを考えたい時、心が動き出した時、 “仕事”を立ち上げる時、壁にぶつかった時に、 役立つヒントがここにはたくさんつまっています。

   いつか、あなたのaddress the smile ――笑顔はここにあるよ!という メッセージを聞くことを、私たちは楽しみに待っています。
2005年4月
編者を代表して
NPO法人ETIC.フェロー
広石 拓司